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食生活とアンチエイジング

健長寿のためのヘルシーフードピラミッド(ハーバードメディカルスクール公式ガイド)前田和久 医師・医学博士 大阪大学医学部大学院医学系研究科講師 内分泌代謝内科学、未来医療センター

著書紹介 “太らない、病気にならない、おいしいダイエット”

ハーバード大学医学部留学中の恩師であるウォルター・C・ウィレット博士の著書の翻訳本として、光文社より出版。翻訳者である前田和久氏は、メタボリックシンドロームの救世主であるアディポネクチンを発見されたことでも有名です。脂肪組織に豊富に発現されるアディポネクチンは脂肪燃焼や血糖値低下を促す善玉ホルモンとしても知られています。 内分泌代謝内科を専門とする前田先生の翻訳本“太らない、病気にならない、おいしいダイエット”は、これまで常識とされていた日本人の健康のための食生活の常識をくつがえすような内容がたくさん盛り込まれています。

出版:光文社 税込価格:\1,785(本体:\1,700) ※書籍購入に関するお問合せはこちらまで

欧米の抗加齢医学会でも、食事については、もっとも重要視されています。
以前の特集の「アンチエイジングの目的と、健長寿の22か条」で、取り上げられていたように、老化にもっともかかわりのある生活習慣のなかでも、食生活について今回はスポットを当ててお話します。

現在、欧米でも、推奨される食事、推奨されない食事、内分泌代謝レベルを最適化する食事など、食材、調理法、摂取する時間帯といったことも含めて、いろいろと取り上げられる機会がふえ、かえってその膨大な情報の中で、戸惑っている方々も多いと思います。不足した栄養分については、サプリメントから補充する傾向にある現代社会の中、やはり、もっとも基本となる、毎日の食事から、必要な栄養分を摂取することが大切だと思います。

フードピラミッド

フードピラミッド・イメージ

フードピラミッドとは、一日の必要栄養摂取量分の栄養素を満たすために、最低摂るべき食品の分量を食品群ごとに示したものです。理想的なバランスの食事の指標といえ、フードピラミッドでは、より底辺のものほどより積極的に摂取し、頂点近くのものはあまり摂取しないことが推奨されます。

右図は米国の食のガイドラインでもある米国農務省 (USAD)のフードピラミッドであり、DASH(※1), Duke大学、ADA(※2)のガイドラインでも引用されています。

しかし、先にご紹介した“太らない、病気にならない、おいしいダイエット”の著者であるウォルター・C・ウィレット博士が、このUSADのフードピラミッドの問題点を提起し、新たなるフードピラミッドを提案したのが、下図のフードピラミッドです。このフードピラミッドでは、炭水化物も白米、白パンだけが、分離され頂点のほうへ移動し、未精製の穀物が底辺に残され推奨されています。蛋白源も魚、鶏肉に比べ、赤身の肉がより上方に示されています。

フードピラミッド

これらは米国における1980年より約20年間、延べ30万人のデータをもとにまとめられたものです。この大規模食事調査による統計解析は、日本のように、大部分の人が白米を常食としている民族ではなく、パンや米やパスタを主食にする多国籍民族のいる米国だからこそできたことなのかもしれません。

日本人に糖尿病の患者が多いのは?

さらにウォルター・C・ウィレット博士は、GlycemicIndex(G.I)-グリセッミックインデックス(指数)の概念にもしっかりふみこんでいます。

食品の種類によって、消化吸収の早いもの(グルコース等)では血糖が急激に上がり、それに反応してインシュリンも大量に分泌されるので、血糖もすぐに下がります。いっぽう消化吸収の遅い炭水化物などは血糖もゆるやかに上がり、インシュリンもあまり分泌されません。G.Iとは、言い換えると、それぞれの食品が血糖値の上昇にどのくらい影響を与えるか(血糖上昇率)を示す数値なのです。一般にG.I が低いものほどいい食材とされています。ブドウ糖を100として、白米は60〜70、玄米ごはんは50〜60であり、60以下が望ましいとされています。 日本人に糖尿病の患者が多いのは、日本人はもともとインスリン分泌が少ない国民であるため、毎日主食としている白米こそが、負担になっているのではないかと、考えます。

メタボリックシンドロームの救世主であるアディポネクチン

アディポネクチンは、体内の脂肪細胞で作られており、脂肪燃焼や血糖値低下を促す善玉ホルモンで、メタボリックシンドロームの救世主であるといえます。ところが、過食や運動不足などによる肥満などで、内臓脂肪がたまると、アディポネクチンの量が減ります。

肥満はメタボリックシンドロームの最重要原因となる

血中のアディポネクチンを増やすには、内臓脂肪を増やさないことも重要ですので、そのため、食事療法はもちろんのこと、毎日、適度な運動と体重のコントロールを行うことも基本です。(※ヘルシーピラミッド底辺部分参照)

また、日本人の40%は遺伝的にアディポネクチンの産生能力が低いために、糖尿病が多いことが報告されています。全粒穀物、玄米といった精製されていない穀物やGI値の低い食品を多く摂取することがアディポネクチンの分泌を促すというデータがでています。また、肉よりも魚を摂取する、適量のアルコールを摂取することも含め、食事内容について再度見直す必要があると思われます。

次回はアディポネクチンについて、さらにメタボリックシンドロームとの関係について、掘り下げてお話します。

(文責)医師・医学博士 日比野佐和子

USADのピラミッドの返還「わが国における食事バランスガイド」
(厚生労働省、農林水産省 2005年)

* 1:DASHとはDietary Approach to Stop Hypertension(高血圧の緩和するための食事療法)の略ですが、DASHでは食べ物の組み合わせで血圧の上昇を抑える効果を調べています。
* 2:ADAとはアメリカ栄養士協会(ADA: American Dietetic Association) のことですが、ビーガン(完全菜食)や他のベジタリン食は、妊娠中・授乳中・幼児・子供・成人を含めて、生涯において適切な食事であることを提唱しています。

(参考文献)
Maeda N, Shimomura I, Kishida K,et al.: Diet-induced insulin resistance in mice lacking adiponectin /ACRP30. Nature Med 2002, 8:731―736.
Stumvoll M, Tschritter O, Fritsche A, et al.: Association of the T-G polymorphism in adiponectin(exon 2)with obesity and insulin sensitivity interaction with family history of type 2 diabetes. Diabetes 2002, 51:37―41.
Hara K, Boutin P, Mori Y, et al.:Genetic variation in the gene encoding adiponectin is associated with an increased risk of type 2 diabetes in the Japanese population. Diabetes
2002, 51:536―540.
メタボリックシンドローム 疾患概念から食事療法まで メタボリックシンドロームとアディポサイトカイン・関連遺伝子 アディポネクチン,前田和久 (大阪大 大学院医学系研究科 内分泌代謝内科),臨床栄養 ,Vol.108, No.6, Page684-689 (2006.05.20)

前田 和久氏 プロフィール

医師・医学博士
大阪大学大学院医学系研究科講師
内科専門医、循環器専門医、肥満学会評議員
89年大阪大学医学部卒業。ヒトゲノムプロジェクトにて脂肪組織解析を担当(大阪大学細胞工学センター松原謙一研究室('93-97))。96年にアディポネクチンを発見し、脂肪組織が内分泌臓器であることを明らかにする('96 BBRC, '97 Gene)。99年ハーバード大学栄養部門に留学。Dr. GS Hotamisligil & Dr. WC Willetに師事。研究テーマは“Global Protection Against Metabolic Syndrome('01 Nature Medicine, '02 ATVM, '02 Nature, '03 Diabetes, '04 Circulation, '05 Cell Metabolism, '06 Diabetes)”。同助手を経て、帰国後Dr. Willet(平成16年度ホンダ賞受賞)らとともに栄養学の最新エビデンスの集大成"Eat, Drink, and Be Healthy"“太らない、病気にならない、おいしいダイエット”を日本国内向けに出版。

 

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